ホテル王に狙われてます!ハニートラップから守るはずが、罠にかかったのは私でした?!
「あっ!またあのむさ苦しいお客様!春名さん、お願い!」

「…はい。分かりました。」

私は春名美夕26才。このベリールートホテルの契約社員となって2年目、こんな感じで、正社員にお願いされると断れない。

「いらっしゃいませ。森本様。」

フロントに訪れた森本様のチェックインの手続きをする。

いつもヨレヨレのパンツにしわくちゃのシャツ。おまけに髪もボサボサで前髪も目までかかっており、さらに眼鏡をかけていて、表情が分かりにくい。高級ホテルと言われているこのホテルには、明らかに似つかわしくないお客様だ。しかし、特に問題もなく、きちんと支払いをしてくれる以上お断りするわけにはいかない。おまけにこの一ヶ月、このホテルに毎週末宿泊している。いつの間にかホテルのフロントスタッフは、このお客様が来ると私に押しつけるようになった。

森本様は、宿泊者シートに住所、氏名、連絡先を記入している。大きな手だがきれいで、指も長い。

「書けました。」

と言って、シートを私の方に向きを変え差し出した。

「あっ、ありがとうございます。」

長い指につい見とれてしまっていた。恥ずかしい。

部屋のカードキー持ち、カウンターから出て、森本様の側へ行く。

「お待たせ致しました。では、お部屋にご案内致します。お荷物お持ち致します。」

と、声をかけるが、いつも、

「自分で持ちます。」

と、言ってくれる。

鞄はそう大きくはないが、持たせてもらったことは1度もない。

いつもエレベーター内ではいつも無言だ。

ポーンと、音が鳴り10階に着いた。

エレベーターのドアが開く。
部屋番号は1011だ。エレベーターを降り部屋まで案内する。

カードキーを入れて抜くと扉開き、電気のところにカードキーを挿した。扉を押さえて、先に森本様にお部屋に入っていただく。それから、ドアストッパーで、扉を開けたままにしてから、私も部屋に入る。

お決まりの非常口の場所、フロントへの電話の説明をすると、

「毎回ごめんね。」

と、森本様が苦笑いしながら言った。

「とんでもないことでございます。」

と答えてから

「ではごゆっくりお過ごし下さいませ。失礼致します。」

と言って部屋を出た。こちらも、マニュアル通りに、同じお客様でも毎回非常口の場所は説明しなければならない。

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