むり、とまんない。


『俺とつきあって、俺のそばにいて。
それだけで胡桃のコンプレックスはなくなるから』

『ど、どういうこと?』


杏たちが来る少し前。

言葉の意味が分からず、首をかしげていたら、遥はふっと笑って、


『その顔も。めちゃくちゃかわいい』


「っ!?」


私の背中に手を回し抱き起こすと、全身を包むようにぎゅうっと抱きしめられた。


「あ、あの遥……?」


『慌ててんのもかわいい。
はぁ……胡桃がかわいすぎて死にそうなんだけど』


「っ!?」


オレンジの香りが全身を包む中で、甘い心の声が聞こえたら。

はずかしい気持ち以上に、頭も体もぜんぶが遥でいっぱいになる気がした。


「女の子はかわいいって言われれば言われるほど、可愛くなれるって知ってる?」


「聞いたことは、ある……」


やっと口を開いたと思ったら、遥が言ったのはその言葉。


たしかテレビで、実験してみたっていうのをやってて。

結果としてその女の子はほんとうに自信がもてて、かわいくなれたって。


「って……ま、まさか……」

「お、意味わかった?」


嬉しさで弾む声に、ギクリと背中が跳ねた。

うそ、だよね?


「俺の心の声が聞こえるってことは、俺が思ってること、ぜんぶ胡桃に筒抜けなわけ」


「はい……」


「ってことは、好きとか、かわいいとか、胡桃が俺を好きになるまでたくさん言えば、胡桃は自然と自分に自信がもてるようになるかもしれないってこと」


まあ、それ関係なしに、俺はいつもそう思ってるし、言いたいけど。
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