その星、輝きません!
 その翌日、朝のミーティングが終わると、表のシャッターを開けに向かった。クリニックと言っても賃貸で、古いシャッターの開け閉めには苦戦している。

 まず両膝を付き、少しの隙間を開ける。そこへ両手を突っ込み、ダンベル上げのように力を入れ上げて行く。少しでも力を抜くと、シャッターが下りてきてしまう。

 やっと、顔のあたりまで上がると、辺りの景色が見えてくる。目の前を通る国道は、赤信号で止まった車が並んでいた。クリニックの正面に止まった黒の高級車に目を向け、一気に押し上げようと、足に力を入れた時だ。

 高級車の運転手がこちらを見た。どこかで見たような顔の男は、私を見て軽く手を上げた。つい、条件反射で手を振ってしまった。


 ガラガラ

 シャッターは大きな音と共に下りてしまった。

 もう少しだったのに!


「鈴橋さん、お電話ですよ」

 安子さんが走って近づいて来て、電話の子機を差し出た。


「ありがとう」


「シャッター、私が開けるから大丈夫よ」

「すみません」


私は、電話機の保留を外し耳に当てながら、安子さんの姿を目で追った。


「よいしょっ!」


 掛け声とともに、シャッターが意外と軽く上がっていく。

 だが、見えると思っていたいつもの国道ではなく、高級車を運転していた男が、シャッターを外から持ち上げていた。自然と、安子さんと向き合う形になった。


「うわああっー」


 男は、悲鳴に近い声を上げて、シャッターから手を離した。


「ぎゃああー」


 安子さんも、逃げるようにシャッターから手を離してしまった。シャッター虚しい音をたててまた下りてしまった。

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