体育祭(こいまつり)
 それからの私は不安定で、ぼうっとする日が続いた。周りの景色さえ虚ろに映った。何もかもにもやがかかったような。生きながらに死んでるような。

 事情を分かっている悠香は私を酷く心配してくれたけれど、なんて声を掛けたらいいのか分からない様子だった。
 でもずっとそばにいてくれた。


 ゴールデンウィークを過ぎた頃、何気なく、帰りにグラウンドを見た。
 たくさんの部活の中で、練習する陸上部員だけが目に入った。
 私は自覚なしに、座り込んだ。そして陸上部の練習を久しぶりに見た。その視界がぼやける。頬を熱いものがいく筋も伝った。

 なんでこうなっちゃったんだろう。彼が走るのを見るのが好きだった。時間? 本当に好きなら、きっと割けたはず。
 お互いの想いが薄れた結果だ。


 ――私はもう、好きな人なんかいらない。

 私はそれからと言うもの、陸上部の練習を見るようになった。最初は泣きながら。
 夕日を受けて走る部員たちは輝いて見えた。元彼がそうだったように。

「おい。思い出すぐらいなら、見るのやめれよ」

 声を掛けて来たのは市野健二だった。小学生の時に好きだった人で、告った時には、

「他に好きな奴いるから」

 と断られた。今は親友のように仲がいい。

「いいんだ。見るの好きなの」
「だったらいいけど、現実に戻ってこいよ?」

 それは嫌だった。
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