僕と彼女とレンタル家族
第36話 「喫茶店1」
 携帯の着信音で目が覚めた在過(とうか)は、ベットから起き上がり机に置いてある携帯を手に取る。携帯ディスプレにノウたりんと表示されていた。

 時刻は午前6時。

「もしもし? 朝からどうした?」

「おはよう! いやね、新しくできた喫茶店がコーヒーおかわり自由らしくてさ、行かない?って誘い」

「あぁ~なるほどね。いいね」

「大丈夫なら、お昼に待ち合わせして昼食どこかで食べてから行こうよ」

「りょーかい。場所はどのへん?」

「新宿東口改札出たすぐにある」

「ふんふん。ちょっと距離あるから、余裕持って11時には着くように向かうよ」

「わかった。そしたら、東改札口前で待ち合わせってことで」

「ん。それじゃぁ、またあとで」

 ノウたりんとの通話を終えると、在過はメッセージアプリを起動し、神鳴(かんな)に送っていたメッセージ画面を開く。「今後どうするの?」と言う在過のメッセージは正常に送信されているが、メッセージの横に既読と言う表記が表れているところを確認すると、神鳴は内容を確認している。しかし、返信されることがなく放置されている状態であった。

「……こっちは無視かぁ」

 単純に返信する余裕がないだけ……と言う可能性も否定できなかったが、SNSで繋がっている在過は、そちらの通知には神鳴が短い感覚で投稿しているのが確認できていた。通知バーから投稿内容をタップすると、SNSアプリが起動する。数秒から数分と言う短い感覚で投稿されており、気になって投稿内容を見てしまう。

【みんな、神鳴のこと心配してくれてありがとうぉ(泣)】
【大丈夫ぅ~殴られた場所は傷になってないよぉ】
【でもでも、神鳴が全部悪いのぉ。すごく怖かったけど、神鳴がもっと我慢して頑張ればいいだけ……だったんだよ】
【彼氏は悪くないの。神鳴がわがまま言ったから。殴られて当然なの】

 短文で投稿された神鳴の内容に、複数人の人達が返信をして慰めていた。このSNSは、投稿した内容に返信する機能もあり、ダイレクトメッセージでやりとりしない場合、誰でも他の人のやり取りも見る事ができる。
つまり、在過は神鳴が投稿している内容に対しての、第三者達が神鳴にどんな言葉を返信しているかも見えてしまっていた。

「はぁ……頭痛い」

 これ以上投稿内容を読んだところで、自分の事が貶されている文面を見続ける気力は今の在過にはなかった。また、継続して届くダイレクトメッセージの嵐にも悩まされている。ダイレクトメッセージ機能は、任意で受け取らない設定も可能であったが、その設定をしてしまうと在過が投稿した日常的な投稿に対して、返信と言う形で方法が変わるだけ。直接届くメッセージと違い、鍵アカウントと呼ばれる設定ではない在過の投稿に返信されると、瞬く間に拡散からの関係ない人達までもがネタを求めて来るのだ。

「もういいか」

 結局のところ、彼女もまた嫌になったのだろう。神鳴の母親や友人達が言う「彼氏なら、彼女の願いは全て聞いて当たり前」と言う行動が、在過にはできていなかった。その結果、彼女達からしたら在過と言う彼氏は、彼女の願いも叶えず、泣かせて首を絞めるDV彼氏と言う存在。

 それが事実ではないと彼女達に訴えたところで、伝えれば伝えるほど自分の首を絞めてしまう事を思い出していた。

 在過はメッセージアプリを起動後、神鳴にもう一度メッセージを送る。

【そんなに僕と一緒が怖くて、僕が神鳴の首を絞めて殺そうとしていたらしいので、別れた方がいいでしょう。怖い思いをさせたこと、申し訳なかった。良い人と出会えることを願っているよ】

 別れを切り出す内容を送信する在過の心境は複雑だった。神鳴から別れると言われたわけでなく、今でも好きと言う気持ちがある在過からの切り出し。好きだからこそ、伝えないといけない言葉。この行動が在過にとって吉か凶となるのか不明だが、神鳴にとっては吉となるだろうと思っていた。

「さて、準備しよ」
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