僕と彼女とレンタル家族
第43話 「家族会議2」
 話し合いの場となる、神鳴(かんな)が住む自宅へ到着する。車から降りた在過(とうか)は、築30年以上は経過しているであろう、木造住宅の2階建を目の前にした。昭和を漂わせる戸建ては、在過達を引き取ってくれた、お祖母ちゃん家を思い出す。しかし、在過が中学になった頃に、くも膜下出血で倒れてしまった。幸い、命を取り止めたが後遺症が酷く、在過達の存在はお祖母ちゃんの記憶から消えてしまっていた。

「じゃーん。ここが神鳴の住んでる場所でーす」

「すごく懐かしい感じがするよ」

 駆け足で自宅に入る神鳴は、玄関前で手招きをする。しかし、両親がまだ自宅に入っていないこともあり、在過は少し離れた場所で待機をした。雷華(らいか)と、名前を知らない父親が家に入って行く。雷華から、早く入って……と低い声で呼ばれ、在過も覚悟を決めて家に入る。

 玄関からすぐ右側に2階へ上がる階段があり、左側と中央奥に部屋がある。靴を脱ぎ、奥の部屋はすでに電気が付いており、廊下をすこし進むとマッサージチェアに座った60代後半の男性が座っている。膝にはタオルケットを掛けて、テレビ番組を視聴していた。

 雷華が、60代後半の男性にお父さんと聞こえたことから、在過は雷華の父親と認識する。廊下側の部屋の前で立っていた在過は、部屋の中を簡単に見渡す。中央にコタツが置かれ、奥側に神鳴の父親が座る。その左側におじいちゃんが座り、右側に神鳴と雷華が座った。

「座りなさい」

 髪留めで長髪の髪をまとめた神鳴の父親は、在過に座るよう指示をする。

「失礼します」

 在過は、コタツの手前側まで進み、右手にカバンを置いて正座をした。緊張していない……と言えば嘘になるだろう。昔、母親のトラブルの件で警察署についていったことがある在過は、現在その時に似たような威圧感とも戦っていた。神鳴の家族である4人に囲まれた在過は、軽く深呼吸をして緊張をほぐす。

「正座も疲れるだろう。楽にしてくれていい」

「……そうですか。お言葉に甘えて、崩させてもらいます」

 正座自体は苦ではなかった。幼少期から、お金を借りられなければ家に入れず、反省と言う玄関の外で裸足になり父親が帰ってくるギリギリの時間帯まで正座させられていたからだ。それを考えれば、温かい部屋で正座などお遊び。しかし、この状況下で一番の権力を持っているのは神鳴の父親だ。彼が言うのであれば、ここは無礼と分かっていても従うのが正しいと判断をする。

正座の姿勢から、胡坐に姿勢を変えた。

「ママ、彼にお茶を入れてあげて」

「……そうね」

「さて、近藤在過君で合ってたかな? 私は、篠崎大迦(しのざきおおか)。娘が大変()()()()()()()()

「初めまして、近藤在過です。このような形で最初の挨拶になってしまったのは、非常に残念ですが、娘さんからお父さんとお母さんの話はよく聞いてましたので、お会いできてうれしいです」

「それで、私に話があると言うのは何かな?」

「はい? 失礼ですが、僕は娘さんから、お父さんが話をしたいとそう言われたので、いつでもいいですと返事をしたんですが、違いましたか?」

 在過と大迦は、一瞬ほど神鳴に視線を動かす。神鳴は俯いて携帯を触っており、二人の視線が自分に向いていると気付いたのか、お茶を用意している雷華の元へ「ママぁ、神鳴も手伝うよ」と言いながら席を外した。

「失礼しました。確かに、僕も話がしたかったのは事実なので。ただ、今回の話し合いの中で僕が先に言うのは違うと思いますので、まずは聞かれたことを全てお話ししたいと思います」

「それでいい」

 大迦とのやり取りをしている最中に、隣に座る60代男性がじっと在過を見つめていたことに、在過は遅れて気づいてしまった。この家の長は、この年配の男性だ。先にこの人に挨拶をするべきであったと、心の中で焦りが生じる。

 在過は体の向きを変え、何も喋らず、じっと見つめられている男性に会釈をして挨拶をした。

「初めまして。お孫さんとお付き合いをさせて頂いています、近藤在過と言います。夜分遅くに時間を作って頂き、ありがとうございます」

「……やっと返しに来たか馬鹿者が」

「……」

隆敏(たかとし)さん。まだその辺で」

「ふん」

 表情は変えず、放たれた第一声から在過の中で、家族全員に話が通っていることは確認するまでもなかった。どのように伝わり、どのような内容を話しているのか。この場で、自分を弁護してくれる存在は一人もいない。その状況下の中で、神鳴が泣いたのは事実だが、その泣いた理由に関して自分に非わないと思っていると、そう発言してもいいのか?と言う焦りと考えが在過の心境を悪化させる。

「おじいちゃん。パパ、お待たせ~」

 お盆の上にコップが5個置かれており、それぞれテーブルの上に置かれていく。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 目の前に置かれたガラスコップに、氷と麦茶が入っている。大迦は、グッと麦茶を飲み干すと正面に座る在過をじっと見つめる。篠崎家4人全員の視線が在過に向けられた。

「君に対する最初の印象だけどね、素晴らしいと思ったよ。君だけじゃなく、何度か娘の彼氏に会っているけど、私を目の前にして堂々としているのは感心したよ」

「そう言ってもらえて、素直に嬉しいですね」

「だが。娘を泣かせて脅した事は看過できない。……それは分かるね?」

「はい。泣かせてしまったことは事実です。大切な一人娘さんですので、泣かせてしまったことは申し訳ないと思っています。がしかし、脅していません」

「……ほう」

「近藤君! あなたね、まだ分からないの? 娘は近藤君の為に頑張っていたのに、苦しめられているのよ」

「頑張っていたと言う意味がわかりませんが、娘さんが僕を助けてくれていること理解しています」

「いま、私が話をしている。言いたいことがあるなら、後にしなさい」

 話し合う前からヒートアップしている雷華は、大迦の一言で言葉が淀んだ。しかし、雷華発言から在過は加害者と言う立ち位置は変わっていないようだ。

「数日前、大泣きして娘が君の元から帰って来たわけだが、君の口から理由を話してくれるかな? 娘からもママからも事情は全て聞いているから、嘘言ってもわかるからね」
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