音楽なんかで世界は救えない
[-00:21:11]青以上、春未満

 7月某日、深夜。
 『アリスの家』の一室から悲痛な叫び声が響き渡る。

「も、も、もうっ、もうだめだーーーー!!」

 透花は、頭をぐしゃぐしゃに搔きむしった。愛用のブルーライトカットの眼鏡の下には青白い隈が濃く残っていた。

 透花のすぐ近くには、机につっぷしたまま一ミリも動かない緒方佐都子がさながら殺人現場の死体のように気絶していた。机の上に置かれた大量の栄養ドリンクとカフェインドリンクの空瓶が現場の酷さをさらに際立てている。

 まさに地獄絵図であった。

「もう無理、絶対に無理!!」

 いくら計算しても、どれほど効率よくやったとしても。

「締め切りに間に合いませんーーーー!!」

 嗚咽交じりの叫びは、夏の短夜の闇とともに溶け込んでいく。

 この地獄が生み出されたきっかけは、ようやく夏の兆しが見え始めた6月初旬のことである。

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