俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

 これも初めて見る顔で目が離せなくなっていると、彼はふっと瞼を伏せて前方を向いた。

 ちょうど信号が青に変わり、ゆっくり車を発進させる彼はわずかに口元が緩んでいる。


「つぐみもわりと深いこと考えてるんだな」
「見くびってもらっちゃ困ります」


 若干バカにされている気がして口を尖らせるも、つい熱く語ってしまった自分が恥ずかしくなった。


「……ありがとう」


 私も前方に顔を向けた直後、ぽつりと紡がれた優しいひと言を耳が捉えた。心がじんわりと温かくなる。

 今日の千里さんはいろいろな表情をかいま見せる。意地悪の中に甘さが加わったり、なにかを秘めて影を落としていたり、儚げな瞳に弱さを滲ませていたり。

 まだまだ彼の深い部分は理解できない。わかるようになる日が来るのかすら定かではないけれど、自分が彼をもっと知りたいと望んでいるのは確かだ。

 婚姻の契約を結んだ今日は、転機の一日となった。これから私たちは、どんな夫婦になっていくのだろう──。


< 116 / 252 >

この作品をシェア

pagetop