俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

 しかし約一年前、インシデントの情報が飛び込んできた。父が機長を務めた旅客機が、滑走路をオーバーランしたというのだ。

 オーバーランは滑走路の終端を行き過ぎる事故で、最悪の場合は障害物に衝突して機体が大破したり、住宅街に突っ込んで地上にいる人も巻き込む大惨事を招く可能性もある。

 このときは、着陸の際の衝撃で数名が負傷したものの、重症者や死者は出なかった。しかしパイロットの操縦ミスが原因ではないかと論じられ、俺は愕然とした。

 これまで完璧だった父が、まさかヒューマンエラーを起こしたというのか。俄かには信じられない話だが、詳しい調査結果が明らかになるまではなんとも言えない。

 調査が行われている間、週刊誌にその件が載ったのを皮切りに、世間では操縦桿を握っていた父を叩き始めた。

 普段の業務でも危険な操縦をしていたのではないかという憶測まで流れる始末。俺が親子だと知っている人はごくわずかなので、俺への影響はなにもなかったが、父への風当たりは酷かった。

 インシデントのあとは、規定によりしばらくフライトはできなくなる。

 自宅にこもりきりの父に時々会いに行っていたが、無理して笑っているのは明らかで。機長として活躍しているときとは比べものにならないほど弱ったその姿は、痛々しくて見ていられなかった。
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