俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「大丈夫ですよ。あなたと心中する気はありませんから」
いつもの調子で嫌味を口にすると、真柴さんは一瞬目を丸くしてククッと笑う。
「俺こそ絶対に御免だね」
軽口を返した彼はすぐに覚悟を決めた顔になり、操縦を交代するのだと悟った。一度目配せをし、俺たちは操縦を引き継ぐ際に必ずやらなければならない声がけを行う。
「I have control」
俺の宣言に対し、真柴さんは小さく頷く。
「You have control」
そう応えた彼は、操縦桿から手を放した。
通信はタワーに切り替わり、泉らしき声が聞こえてくる。地上で対応してほしい旨を真柴さんが伝えると、すべて了承し消火隊が待機していると返ってきた。
その後も雨や風の状況、他機の情報など細かく丁寧に伝えてくれる。正確で迅速、かつパイロット思いの泉は最高の管制官だろう。彼が対応しているというだけで安心感が増した。
『Nippon aviation 185,Cleared to land,runway 34L』
ほどなくして滑走路34Lへの着陸の許可が出され、こちらもそれを復唱する。
滑走路はかろうじて肉眼で視認できそうだが、大雨で視界不良は変わらない。ブレーキは十分に効かないだろう。ギアも作動しなければ胴体着陸だ。
チャンスは一度きり。絶対にミスはしない。
愛しい人の姿を脳裏によぎらせ、心を落ち着かせて操縦桿を握りしめた。