違いませんが、 違います‼︎


「大将から聞きました?」
「聞いたよ。田舎に帰るんだって事?」
「はい」
「千枝ちゃんは?どうするか決まった?」

決まってません。と項垂れる。

斉藤さんはいつも私を励ましてくれる。

千枝ちゃんなら、すぐ決まるよ
千枝ちゃんは、よく気づく子だね

それだけで、心が救われる。


「いらっしゃい」

奥から大将が出てくる。

「決めたんだな」
「あぁ、みんなには本当に申し訳ないんだが」

私が立ち入ってはいけないなにかがあるようだ。

立ち入ってはいけないなにかが、なにかを私は知っている。

女将さんのお父さんの体調が芳しくないのだ。

田舎で酒造りをしているらしく毎年新酒が送られてくる。

一人娘の女将さんが気を病むのは仕方がない事。大将が女将さんの実家に帰り息子さんと酒造りをするそうだ。

出来れば、ついて行きたいが廃業直前の酒蔵に新たな従業員を雇う余裕はないらしい。

斉藤さんはあえて明るい口調で

「とびっきり美味しい酒を楽しみにしている」

と言いながら、大将の肩を叩いた。

2人は高校の同級生だと聞いている。
良いなぁ、こういう関係。

微笑ましく見ていると、お客さんが入ってくる気配に、その場を離れる。

席を案内して、お絞りを出す。

彼らも常連さんで、皆『閉店のお知らせ』を知り足を運んでくれている。

ここでも、「残念だよ」と会話をした。

「気掛かりは、千枝ちゃんだけだよ」
「決まってないみたいだね」
「いい子なんだけど」

うーん。と2人が何か話しているとは思ったが、私についてだとは思わなかった。

なんせ私はモブキャラ。村人Dなのだから。

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