紳士な御曹司の淫らなキス~契約妻なのに夫が完璧すぎて困っています
クリスマス


 十二月に入り、ネイルサロン「ヴォーグ」は繁忙期を迎えた。とくにクリスマス一週間前になると、どの日も予約でいっぱいになる。昼休みをまともに取る暇もないくらい、毎日忙しかった。
クリスマスぎりぎりになって、ようやく思い出したように、「薫さんへのクリスマスプレゼントどうしよう」と思った。だってわたしが買える程度の品なら、薫さんなら余裕で買えてしまうだろう。そういう相手に何を贈ったらいいのかわからない。


「プレゼントは『わたし』、でいいんじゃないですか? いつもより大胆になって熱い夜を過ごしましょうよ」


 小沢さんに相談するとそんな恐ろしい答えが返ってきた。「とんでもない」と言うわたしに小沢さんは、「先輩自己評価低すぎですよ。だって緑川さんは先輩が好きで結婚したんですから、最高のプレゼントじゃないですか」
 

 悩ましくなる。
 
 本当の夫婦になって以来、わたしは薫さんと寝室を共にしている。もちろん夫婦の行為はあるし、薫さんは毎回「可愛い」とか「きれい」とか言ってくれるけど、最近では薫さんは一度眼科に行くべきだと本気で考えていた。
 
 小沢さんは予約のお客様が来たので、接客に行ってしまった。
 
 一人で悩んでいると、愉快そうな笑い声が聞こえてきた。
 
 顔を上げると室善の前に薫さんの祖母で室善クリスタルロード川崎店の店長の祥子さんが立っていた。


「若い人はいいわね」


 どうやらさっきの会話を聞かれていたようだ。恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になる。

 でもこれはいい機会だと思いきって訊いてみることにした。


「あの、薫さんが欲しがりそうなものってわかりますか?」

「昔からあの子は何をあげても喜んでくれましたよ。腕時計も車もマンションも、全部笑顔でありがとうと言ってくれました」

 
 車やマンションなみのものなんて残念ながらわたしには買えないし、腕時計にしても、祥子さんが贈ったものならきっと目玉が飛び出るくらい高い品に違いない。わたしが悩んでいると、祥子さんが言った。


「薫は昔から家族でお祝いごとをしたことなんてないから、紫さんが一緒にいてくれるだけでも嬉しいはずですよ」


 そういえば、薫さんは幼いころ寂しい思いをしていたと聞いていたことを思い出す。祥子さんはふいに言った。


「……あと、夫が生きていたときに、何回か薫をあそこに連れて行ったことがあります。昔からあの子はああいうのが好きで」

「え、どこですか?」

 祥子さんは笑顔で教えてくれた。








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