宵闇の光

 その能力故に、アディは本当に必要最低限でしか他人と接触しない。物理的な意味ではもちろん、心理面においても同じくだった。自らを極力抑え外に出さず、相手にも踏み込まない。
 集団内でアディの能力のことを知っているのは、ボロムと「親友」のラグニードのみ。大抵の場合、自分たち二人に対しては打ち解けていると思われるが、未だに時折、一線を引いた言動も見せる──先程のように。古株にもかかわらず今もボロムを団長としか呼ばないのも、その一例だった。
 意識して使える力ではないとアディは言う。確かに、そうするつもりがなくとも触れただけで、場合によっては近づいただけで「視聴き」する能力だと聞いている。これまで見てきた様子からしても、ほとんどは実際にその通りだろうとは認識していた。
 ……しかし、全てがそうとは言えないのではないかとも考えている。特に傭兵団を組織して以降、数えるほどではあるが、アディが故意に能力を使っているのではないかと思わせる場面があったからだ。多くの場合それは、こちらに不都合になりかねない相手の隠し事──ボロムですら漠然としか気づかない違和感の元を、アディが具体的に指摘するという形だった。
 それで難を逃れた事実は確かにあるが、アディ自身にとっては決して良いこととは言えない。
 自分に対してアディが恩義の念を持つのは、この十九年を考えれば自然ではある。だがボロムはそれ自体にこだわってはいないし、彼はもう充分に返しているとも思う。傭兵団立ち上げ段階から努力と協力を惜しまず、どんな訓練も任務も進んでこなした結果、集団を代表する腕の持ち主となったことで。
 しかしアディはそう考えてはいない。だからこそもっとボロムの役に立つため、当人も疎んじているはずの能力を行使しているのだ。そう気づいているからこその先程の問いかけだったが、アディは論じる気がないといった態度で早々に話を中断させた。同じ質問をしてきた、これまでの何度かの機会と変わらず。
 他人の内面を「視聴き」することはひどく消耗する場合が多いと、知り合いは話していた。アディとて分かっていないはずはない。その上で、限られた場合ではあっても力を利用している──文字通り、自らの心身を削りながら。
 そんな真似は止めさせなければと思いながらも、アディの頑さを承知しているだけに、今以上に踏み込みきれずにいるのだった。
< 9 / 147 >

この作品をシェア

pagetop