2人なら…「推しと彼氏と彼女の関係」
《…それぞれの事情…》
scene.5

臨時休業のリンドフィールドは従業員全員でリュウの応援をするため渋谷のサロンでライブ配信のスタートを待っていた。
常連のお客さんも数人、駆けつけてくれている。
オーナーと心ちゃんと私は配信直前に現地に向かうことになっていて、会場で結果を見守ることになっているが…
考えただけで緊張からお腹が痛くなる。
私は心ちゃんが渋谷店のスタッフと談笑している隙をみてオーナーを店のバックヤードに呼び出した。

「急な話ですみません…。」
「…どうした? 改まって…。」
「私事をこんな時に申し訳ないのですが…。」
私は仕事を辞めて郷里へ帰ることを伝えるとオーナーは驚いた表情の後、あからさまに困惑した顔をして頭を掻いた。
そういう事情なら…と止めることが出来ないことに納得はしてくれたものの残念そうな表情と心配する言葉をくれた。
深く頭を下げると私はサッと踵を返した。
これ以上話をすると…後ろ髪を引かれてしまう自分に気付いてしまう。

「…待ってっ!ハルちゃん。
僕はハルちゃんと流青が付き合ってると思ってた。」
私の背中にオーナーが呟く。
私は思わず立ち止まって答えに詰まった。
「違ってた?違ってたら…ごめん。聞かなかったことにして…。」
「お客様にも、オーナーにも…申し訳ないと思ってます。こんなにお世話になったのに。
私から…リュウにはちゃんと伝えます。」
オーナーは頷きつつもまた頭を掻いて…参ったな…という表情で息を吐いた。
「こんな事を言うべきじゃないし…相手に聞くべきでもないのは分かってるけど…」
オーナーは丁寧に前置きをすると続けた。
「リュウせいには子供は作れない。
だから…その…
お腹の子の父親は…ハルちゃんを幸せにしてくれる人なのかな…って。
ごめん…不躾で。こんな聞き方しかできなくて…。」
私はやっぱり後ろ髪を引かれて…泣きそうになる。
オーナーがこの人でよかった…。
「オーナーには感謝してます。リュウには私からちゃんと話します。」
私がもう一度頭を下げてバックヤードの戸を開けようとすると…少し隙間が開いていた。

ハッと顔を上げると目の前にアリスさんが立っていた。
「そろそろ…会場に向かいますか?声を掛けようと思って…
あっ、私、私もネイリストの友達から誘われて会場で滝沢君を応援しようと思って…。」
アリスさんはいつもになく遠慮がちで、私を上目遣いで覗き込んだ。
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