2人なら…「推しと彼氏と彼女の関係」
《…光と影…》
《…光と影…》
scene.1

「それでは、始めて下さい!」
AIロボットが発する電子音のような女性司会者の声でコンテストが開始する。
舞台のスクリーンに、今年のテーマが大きく映し出されてカウントが動き出す。
Ready Goの声が一瞬…遠くに聞こえて流青はハッと我に返る。
手に取ったハサミの刃がキラッとスポットライトに反射して揺れている。
いや…揺れているのは刃先ではなくて自分の指先。
じっとりと手汗が滲む。
普段の仕事で手汗なんか感じたことはない…
緊張してる…俺。
流青は目を閉じて、数秒…息を止めてから大きく吐いた。

俺だけじゃないだろっ、ここにいる全員がこの張り詰めた空気の突破口を探している。
俺だけじゃない。
うん…俺だけじゃ…ない。そうに決まってる。

瞼を開けるとぐさりと光が割り込んで来る。刺されてしまいそうな程の光の差す方へ向かう。

向かうしかないだろっ。

「おいっ流青…いつも通りやれよっ!今日に限って、俺の頭でミスるなよっ。」

相棒のモデルがリラックスさせようと小声で笑う。
そして、イスに座り直すと頰を叩いて真顔を立て直した。
白髪にラメ入りのワインレッドがマーブル模様に波打つカラー。
毛先は淡いゴールド。
渋谷店のアシスタントの彼は細身で小顔。
整った可愛いコツメカワウソのような目を細めて頭を動かさずにカットドールに成り変わった。

テーマは〝冬の攻めナチュラルデート〟

なんだよそれっ…攻めるくせにナチュラルかよっ…と心で愚痴りながら流青は宙を仰ぐ。

カラーは当たりへ持って行く…
白髪と紅色…境目は朱色…
……朱雀色。
朱雀。

なんで…アイツなんか思い出すんだよ…

「おいっ…流青。行けるか?」
コツメ君が腹話術師のように口を開けずに無表情で声をかける。
「最高に攻めるデートにしますよっ!」
流青は不敵な笑みを浮かべる。
「いいじゃん。、流青!期待しちゃうねーー。」
指の震えが止まった。
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