魔術師と下僕

夜。

 イリヤは姿見の前に立ってみた。

 くまさんのパジャマはイリヤにぴったりだ。
 喜び勇んでくまさん姿をジオに見せに行ったのだが、


「ふーん。なかなか似合ってるんじゃない?」


 と、その反応は素っ気ない。
 嬉しい気持ちが急に萎んでいった。イリヤはなんだか、自分が大人に変身する前よりも小さくなってしまったんじゃないかと感じた。

 心のどこかで、もっと優しくしてもらえると期待してしまったのだ。たとえば、「かわいい」と言ってくれるなり、せめて微笑んでくれるなり。

 それなのにジオときたら、ブルーライトカット眼鏡の下の眉間にふかぶかと皺を刻んで、すぐにパソコンの方へ向き直ってしまう。イリヤはすごすごと部屋に戻ると、なんだかふてくされたような気持ちのまま眠ってしまった。

 たった今、孤児院の二人の服のポケットに大量の毛虫が湧く呪文が発動したことも、数日後に通販の大きな箱でリスさんとうさぎさんの着ぐるみパジャマが届くことも知らずに、だ。

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