婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
 妹の花音さんがフランスの有名な音楽大学に入学したので、母親も一緒にパリで生活している。

 兄の豪(ごう)さんはF1サーキットのレーサーで各国を転々としているが、あと数年で引退し、フォンターナ・モビーレのミラノ本社の社長になるようだ。

 現在は彼の祖父で和歌子おばあ様の旦那様がCEOを務め、ミラノとフェラーラを行き来しているそうだ。ひとりで住んでいると聞いて大丈夫なのだろうかと驚いたけれど、使用人がいるので問題ないと亜嵐さんは教えてくれた。

 名刺をもらった日、会社についてインターネットで調べてみた。高級家具なんて私には縁がないものだから、椅子ひとつの高額な値段に呆気に取られた。

 世界中のセレブに愛されている家具の最高級ブランド、フォンターナ・モビーレは各国の主要都市に店舗を展開している。

 亜嵐さんは幼い頃から日本へは何度も来ていたが、フォンターナ・モビーレ本社に就職して四年目の二十六歳の頃から、一カ月単位で年間四カ月間ほど日本に出張し滞在するようになった。しかし来日しても仕事ばかりで、こうしてあちこち歩くことはなかったらしい。

 そして一カ月前、日本支社長に就任し、和歌子おばあ様と来日したそうだ。

 兄はF1レーサーで妹はピアニストの卵。亜嵐さんは大会社の日本支社長だし、すごい家系で、庶民の私が本当に婚約者になってもいいのか考えてしまう。

「一葉ちゃん、どうした? 暑いから疲れただろう。近くにカフェはある?」

「すぐ近くにあります」

 観光客にはあまり知られていない小さなカフェに、亜嵐さんを連れていった。

 亜嵐さんはアイスコーヒー、私はパイナップルとヨーグルトのフローズンスムージーを頼んだ。

 店内には五つほどのテーブルが置かれ、私たちを含めて三組がいる。

 暑い外からエアコンの効いた室内に落ち着き、汗がスーッと引いていく。曇天でも暑いものは暑い。首もとにそっとハンカチをあてた。

 亜嵐さんも汗をかいていたみたいだけど、フレグランスに合わさっているのか、爽やかな香りでびっくりする。父や弟は少なくともそんな爽やかではないから。

 ふたつのテーブルに座るのは、大学生くらいの女子ふたりと四人グループ。四人グループの方から、「あの男の人、めっちゃかっこいい!」「モデルかな」などと、店内が狭いので会話が聞こえてくる。

< 25 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop