婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
「女子大とはいえ、アルバイト中なんかは男と接する機会があるだろう? 男よけに必要だ。近いうち、一緒にリングを買いにいこう」

「男よけ? 亜嵐さん、安心してください。私に声をかける男の人なんていないですよ」

 私はバカらしいと一笑に付(ふ)す。

「今はいなくてもこの先わからないだろう? 君はかわいいんだから」

「そう思ってくれているのは亜嵐さんだけです」

 まだ〝愛している〟とは言ってくれていないけれど、〝かわいい〟と口にしてくれるだけでうれしい。

 亜嵐さんは腕時計へ視線を落とす。

「もう九時か。帰ろう」

 彼はウエイターを呼んで会計を済ませると、席を立った。

 私は大学二年生になり、学業にアルバイトにと励みながら、週末は忙しい亜嵐さんができるだけ時間を作ってくれて、再び彼と出会った夏がやって来た。

 大学が夏休みに入り相変わらず私は実家でアルバイトをし、週末は亜嵐さんと出かける日々を送っている。

 そんな折、アルバイトの休憩中に和歌子おばあ様が入院したと亜嵐さんから連絡があり、祖母と一緒に駆けつけた。

 六本木のレジデンス近くの大学病院で、和歌子おばあ様は六階の特別室に入院したという。

 面会の手続きをしてから、亜嵐さんから教えてもらった病室へと、沈痛な面持ちの祖母を気遣いながら向かう。

「和歌子ちゃん、最近、元気なかったんだよ」

 祖母は毎日のように電話で話をしていたらしい。私は和歌子おばあ様と会ったのは五日前で、不調にはとくに気づかなかった。

「どこが悪いんだろう……」

 悪いことなんて起こらないよね?

 憂慮しすぎているのか、両手を組む手が冷たい。

 祖母とふたりエレベーターに乗り込んで、六階に到着した。降りたところにあるナースセンターで面会の旨を告げる。

「一葉ちゃん、おばあ様」

 ビジネススーツ姿の亜嵐さんが歩を進めて、祖母の前に立つ。

「おばあ様、突然お呼びして申し訳ありません。驚かれたでしょう。顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」

「私のことなどいいんだよ。和歌子ちゃんはどうなんだい?」

「祖母に会っていただく前に話があります。掛けてください」

 ナースセンター横のオープンスペースのソファを亜嵐さんは示す。

 亜嵐さんの落ち着いた声色が、かえって嫌な想像をかき立てる。

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