死ぬ前にしたい1のコト



・・・



「ハズレ」


会議室F。
あの頃の面影はあんまりないかも――でも、偉そうなところが微妙に重なる顔で、ユウが言った。


「えー!! 嘘! そんなはずない。合ってる」


頬杖ついて、ジロリと見上げられて、うっと詰まったけれど。
でも、やっぱり間違いない。


「そーね、イチにはね。でも、俺には違うの。“初めて会った日”ってやつ」

「え……? 」


コの字に並べられたデスクじゃ、二人で話すには不便で。
側に立ったままでいた私の手首をそっと握って、「いいんだよ」って軽く振った。


「言ったよね。覚えてないの知ってるし、それでいいんだって。だって、あの時初めましてっぽく話したの、俺だし」

「え……じゃ、じゃあ、いつ……? 」


あれは、ユウが入社してすぐのことだ。
それよりも前に、どこで会ったんだろ?
朝、遅刻しそうで突き飛ばした、とか?
面と向かって話してたら、さすがに覚えてると思うんだけど――。


「ま、それは今日は置いとこ。俺は嘘つきだからね。ひとつひとつ説明してたら長くなるし、勝手に会議室使ってることバレる」

「あっ、そうだ。誰も来ないといいけど」

「この時間予約入ってなかったのは、確認済み。急な会議入らないとも限らないけど、大丈夫じゃない。ここ設備古いし、別の部屋から埋まるだろ」


用意周到だなって苦笑する私を複雑そうに見上げ、ふと息を吐いた。


「騙しててごめん」

「……ううん。私こそ、気づかなくて」

「まあね。結構バレバレだったと思うけどね? でも、だと思ってた。そう仕向けたんだからさ」


そうやって笑うの、ずるいよ。
怒って責めて、嘆いたっていいのに。


「……っ、でも、それは……! あのことが原因だよね? 私があんな……だったから。私の為に」

「ストップ」


ふうっと、溜め息もうひとつ。
今度のはより深く、長く。
それでいて、組んでいた長い足をスッと下ろして立ち上がったのも、手首を握ったまま正面に立ったのも、一瞬。


「騙されといて、自己完結しないの。……そうだね。あのことが原因、は正解。でも……」


二度、引かれた。

くいっと引っ張られて、よろけて。
あっと声を漏らす間も、思う間すらなく――今度は腰を支えられて、もう一度。


「……ゆっ……」

「“私の為に”は、大ハズレ。……誰の為って、俺の為に決まってるじゃない」


捕まった手を、どうしたらいいの。
力いっぱい、(はた)けばいいのかな。
それで、本当に振り解ける……?


「……ね。あの子とは、どんなキスしたの。この前みたいな、ちゅっていう可愛いの? それとも……」

「……っ、ゆ、う」


唇が触れたと分かった。
掌に、指先に、移動していくのも。
でも、何か、今。


「……とても、俺には言えないような、悪くてエロいやつ? ……ね、教えてよ。どっち? 」


――もっと、熱いものが触れた。


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