強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
「まだ時間はあるか? 悪いが少しの間依子と一緒にいてくれないか?」

「え? ええ、良いけれど……」

「じゃあ、すぐ戻るから待っていてくれ」

 私にも同じ言葉を残して、ケントはどこかへ走って行ってしまった。


 私とカテリーナさんはそんな彼の背中を見送って、顔を見合わせる。


「まあ、どうやって話そうか迷っていたし……良かったのかしら?」

 首を傾げながらそんなことを言うカテリーナさんに、私は「そうですね」としか返せなかった。

 ちゃんとお別れを言えないのは寂しかったけれど、ケントの顔を見たままだとどちらにしろ言えなかったかもしれないからこれで良かったんだと思う。



 ケントがいなくなり、自分のバッグからチケットを取り出したカテリーナさんは私に手渡す前に真っ直ぐ視線を合わせる。

「依子……本当に良いのね? どうしても彼を信じきることは出来ない?」

 悲しそうな表情は、私を引き留めたいというより心配してのことだろう。

 ケントを好きなのに、彼から離れるという決断をした私の辛さを思って。


 ケントもカテリーナさんも本当に優しい。

 初めての海外旅行が、彼女達と一緒で良かった。


 結果的に辛い恋をすることになったけれど、それでも良かったという思いは変わらない。

 それくらい楽しかったんだ。
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