強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
「依子のこと抱いてはいなかったみたいだけれど、饒舌(じょうぜつ)なあなたのことだからいくらでも愛を囁いていたんでしょう? それでも自信を持てないと言うなら……もう離れた方が良いと思ったの」

「…………は?」


 愛を……囁く……。


 確かに、いつもの俺だったらいくらでもそれらの言葉を口にしていた。

 だが、思えば依子に同じように愛の言葉を贈っていただろうか?


 ……いや、一度くらいは言っていたはず……。


 あのときなら言っていたんじゃないかと思う記憶を呼び起こしてみる。

 だが、いくつも出てくる依子との記憶の中で俺が依子に好きだとか愛してるという言葉を言ったことはなかった。

 昨夜彼女が俺に伝えてくれたときだって……。


『ああ、依子……嬉しいよ』

 思いを受け止める言葉しか口に出来ていなかった。


 ただでさえ依子といると今までと違うことが多い。


 付き合う女性に対しては美しさを基準にしていたせいか、綺麗だと思うことはあっても可愛いと思うことはそれほどなかった。

 それが依子に関しては真逆で、一挙手一投足全てが可愛くて言葉をかけるのも忘れる程目で追ってしまう。


 それでいて、時折ハッとする程綺麗に見える瞬間がある。

 そんなときは見惚れてしまって言葉自体が出てこない。
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