強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
　とは言え流石に会いに行くわけにはいかない。

　直接会って聞いた方が良いんだろうけれど、今から行くわけにはいかなかったし……やっぱりまだ少し怖いから。


　だから、電話出来そうなスペースに行きスマホを取り出す。

　ケントに直接電話出来る、借りている方のスマホ。


　電話を掛けようと番号をタップする前に深呼吸をする。
　ちょっと覚悟を決める時間が必要だった。

　きっと怒ってる。
　何も言わずにいなくなったんだから。

　まずは謝って、それから――。


　と、電話のシュミレーションをしていると持っているスマホが勝手に震えた。

「え？　ケントの方から電話！？」

　少し考えれば彼からかかって来てもおかしくはない状況なのに、突然のことに慌てた私はただ驚く。

　そして普段のクセから通話ボタンをためらいもなくタップしてしまった。


　あああ！
　か、覚悟とかちゃんと出来てないのに！？


　焦るけれど、通話になっているのに無言で通すわけにはいかない。

　私はスマホを耳に当て「……ケント？」と呟くように口にした。


『依子！　今どこにいる！？　出国審査はもう終わったのか？』

　怒っているだろうと思っていたのに、スマホから聞こえてくる声は焦りを含んだもの。
< 163 / 183 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop