強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。

『言わずにすれ違ったりしたら嫌だよ?』

「言わずに、すれ違ったりしたら……」

 どうしてこんなに頭の中に残ってしまっているのか考えてふと気付く。


 そうか。
 私は口にしていなかったんだ。

『ケントは私をどう思っているの?』

 という質問を。


 聞いて同じ思いの言葉が返ってこないかも知れないと思うと怖かった。

 だから確実に知ることが出来るその方法を試さなかった。


 かろうじて出来たのは、同じ思いを返してくれるかどうかを試すための言葉を口にしただけ。

 私の気持ちを伝えただけ。


 本当に知りたいなら、ちゃんと聞かなきゃいけなかったのに。

 怖いからと逃げて、その第三の選択肢をはじめから除外していた。


 そうだ。
 だからこんなに未練が強いんだ。


 どうするべきか迷ったのは一瞬。

 私は残っていたコーヒーをグッと一気に飲み干し、カフェを出た。


 ケントとのことを後悔だけはしたくない。

 もう少ししたら日本に帰るというギリギリの今になって、ようやくその覚悟が出来た。

 こんなギリギリになってからじゃないと覚悟が出来ないなんて、私は卑怯な女だなと思う。


 でも、今更だとしても、ちゃんと聞こうと思った。
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