強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
 ぐぬぬと葛藤してしまう。

 すぐにでも依子を追いかけないとまた逃がしてしまいそうで不安だ。
 だが、契約はしなくてはならない。

 悩み、葛藤し、結論を出す。


「……契約が済んだらすぐにでもイタリアへ戻る。依子が行ったツアーの日程を調べておけ」

 俺の指示にカテリーナは驚き呆れつつも「はい」と返事をした。



 そうして、俺は依子より一足遅くイタリアへと戻ってきた。

 依子のツアーの日程ではバチカンを観光しているはず。


 観光地はどこも人が多く、人種も様々だ。

 カテリーナは見つけられるわけが無いだろうと言うが、俺は絶対に見つけられると信じていた。


 そして、この人混みの中見つけた。

 相変わらず地味な格好をした、求めていた女性を。

 俺の腕の中にすっぽり収まるほど小柄な可愛い人を。


「依子!? やっと見つけた」

 驚く彼女は、目を見開き「ケント……?」と俺の名前を呼ぶ。

 すぐにでも塞いでやりたい可愛らしい唇から零れた俺の名前が、とても大切なものに思えた。

 思わず頬が緩み、笑みの形に口元が歪む。


 依子の小さな体を抱き込み、顎をとらえて上向かせる。
 そして告げた。

「俺から逃げられると思わないことだ」
< 57 / 183 >

この作品をシェア

pagetop