神、恋に落ちる
「……白羽、とても綺麗よ!」
由那が微笑んで言った。

「え……由那?」
「俺も綺麗だと思うぞ」
一徹も静かに言った。

「そんな…お世辞はいいよ!
命さんにつり合わないことくらい、わかってるから!」
白羽が苦笑いをしながら答えた。

「命が、悲しむな…」

「え……一徹、さん?」
一徹の呟いた言葉に、白羽と由那が一徹に向き直った。
「白羽は、命が初めて“本気で”愛し、全てを捧げたいと思った女だ。
命は残酷な子ども時代を育ってきたせいで、人を信用してないから。
あいつはいつも言ってた。
“人間なんて、信用するに値しない。
だから俺が誰かの為に尽力する必要もない”
そんな命が、白羽に出逢って“どうしていいかわからない”と言ってきた。
白羽に嫌われることに“かなり”怯えて……
そんな命、俺からすれば命じゃない。
それ程愛した女が、自分自身のことをそんな風に言う。俺だったら、辛くて苦しい……」
「一徹さん…」

「白羽、一徹はお世辞なんて言わないよ。
それは私がよく知ってる。だから、自信を持って!」
「由那…ありがとう!」
三人は顔を見合わせて、微笑み合った。


「命さんと一徹さんは、不思議な関係ですね」
「そうか?」
「お互い綺麗で甘くて、恐ろしい。
お互いを信頼していて家族みたいです。
なのにお互い睨み合うと、ほんとに殺しあうじゃないかってくらい怖いです…」
「そうだな。俺は対等に命と付き合ってるが、本当はあいつ程恐ろしい男はいない」

「え……
で、でも…命さん、言ってましたよ。
俺は、一徹には逆らえないって」
「あー、まぁな。俺は命をずっと支えてきたから。
でもある一定を越えると、命は俺でも太刀打ちできない。あ、ほら!俺が白羽を怖がらせた時があるだろ?」
「あ、はい」
「あの時の俺に“謝れ”と言ったあの雰囲気……
あそこで俺がもし謝らなかったら、俺は命に殺されてた」
「そ、そんな……」
「命には、越えてはならない一定ラインがあるんだ。
まぁ…白羽もいずれわかると思うが」

一徹の言葉が、重みをもって響いたのだった。
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