神、恋に落ちる
「神は、俺の命の恩人です」

「黒崎さん…」
「俺は神に拾ってもらった。
神がいなかったら、のたれ死んでたから。
だから俺は、神の為なら何でもする」
「そうだったんですね!」
「でも、おかしいなぁ……」
「え━━━━━」

黒崎は白羽を抱き締めていた。

「こんなのおかしい……
神の女に惚れるなんて、あり得ないのに……」
「黒崎さん、離し……」
「貴女は狡い…」
「え?」
「お礼とか、俺が優しいとか……」
「黒崎さん!お願…」
「そんなこと言われたら━━━━━」

そこで黒崎の内ポケットのスマホが震えた。

「はい。
━━━━はい、はい、わかった」
黒崎はスマホを通話を切り、白羽に向き直った。

「神が帰ってきたみたいです。
お迎えに行ってきますね」
そう言って、頭を下げベットルームを出ようとドアに向かう。

そしてドアを開け一度立ち止まり、前を向いたまま言った。
「抱き締めたこと、謝りませんから」
カシャンとドアが閉まった。


「白羽~ただいまぁ!!」
玄関で白羽と由那が迎えると、一目散に命が入ってきて白羽を抱き締めた。
「おかえりなさい…」
白羽は抱き締め返すことができず、命に抱きすくめられていた。

「白羽~会いたかったよ……!
白羽の甘い匂い━━━━━━」
そこでバッと、白羽を離した。

「え?命さ………」
「クロと、何してた?」
「え━━━!?」

「命?どうした?」
「命さん?」
一徹と由那が不思議そうに命を見る。

「微かに…白羽、酒の匂いがする。
それに、クロの香水の匂いも……
白羽は酒に極端に弱いのに、なんで俺のいないとこで飲んだの!?なんで白羽の身体から、クロの匂いがするの!?」

なんという嗅覚なのだろう。
ロールケーキに香り付けに入ってたブランデー、少し抱き締めただけの黒崎の香水の移り香。
そんな微かな匂いなのに、命にはわかってしまったのだ。

命は白羽の肩を痛い程握りしめ、言葉をぶつけた。

「ロールケーキ!」
「は?」
「白羽が食べたロールケーキに、ブランデーが入ってたの。それで酔っちゃって眠った白羽を私が黒崎さんにベットまで運んでもらうように頼んだの。
ソファで寝かせるの、可哀想で……」
そんな命に、由那が言った。
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