【完】震える鼓動はキミの指先に…。

「はー…なんかもう、なんとかこのモヤモヤを発散しないとね」


ぱしん、ぱしん、


オレからしたら、かなり小さいバレーボールを体育館の床に小刻みに叩き込んでいると、後ろから隆史が試合観戦の為のギャラリー席から声を掛けてきた。


「おーい。しょーたぁー!」

「んー?なにー?」


まだ、ウォーミングアップの時間で、顧問の丹下ちゃんも来てなかったから、オレは呼ばれるがままにそちらの方に歩いて行く。


「隆史、なんの用?」

「え?なんでそんなキレ気味なん?俺なんかしたかよー?!」


ちょっと大袈裟にそう言って、焦ったようなジェスチャーをする隆史に、次から次へとやって来たいつメンと、他の子たちが笑い出す。


ほんと、こういう時隆史のことをこのボールで殴れたら…と、腹黒いことを思ってしまう。


「用がないなら、帰れって。試合近くてみんなピリピリしてんだから」


シッシッと片手で追い払おうとすると、隆史はそんなことどうでもいいという…にんまりした顔付きで、こっそりと指をギャラリーの上の方に向けた。


オレは、すーっとそっちの方に視線を向けて、あからさまに動揺した。


え!
ええ?!
あやっち?
なんで?!


ぱこーん!


あまりの驚きに、バウントさせていたボールを足に当てて、一年のコートに飛ばしてしまった。


「へへっ。お前さん、最近分かりやすいな!油断し過ぎてんじゃね?」

「うるせーよ、てか…なんで…?」

「や、それは俺にも分からん!」

「もー…ほんと、お前帰れ」

「やーん!ひっどーい!」


と、そんなアホらしいやり取りを見ていたのか、あやっちがこっちの方を見て微笑んでるのが分かった。


わー…なにこれ。
マジで照れ臭いし、恥ずかしいし、でも…嬉し過ぎるってのが本音か…。


赤くなりそうな火照ってきた顔を、コートに飛んでったボールを投げてもらうことでなんとかやり過ごしていると、パリッとスタイリッシュなスポーツウェアに身を包んだ丹下ちゃんが登場した。


「こらー!成宮ー!ウォーミングアップさぼってんな!」

「え!なんで分かんの〜?」

「他の奴らと仕上がりが違うでしょーが!」


ばしっ


「…いたい」

「痛くしてんの!ほら、さっさと始める!」

「はーい」


そこで、まだいてくれるかな?なんていう期待を込めてあやっちがいてくれてた方を向くと、そこにはまだ微笑んでるあやっちの姿があって、ばちんっと目が合うと、一瞬驚いたような顔をしたけど、口パクで何か言ってくれている。


ん?


『が、ん、ば、って!』?


まじかー…。
あやっち、マジで最強。
その笑顔で、その言葉は堪らないでしょ。


やっぱり好き、だなぁ…。


俺はそうしみじみ思ってから、丹下ちゃんに引きずられるようにして、ウォーミングアップをしにコートの方に向かった。


優しくて、可愛くて仕方ないって思うのは…キミがきっと誰よりも心が綺麗だからだよ?

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