【完】震える鼓動はキミの指先に…。
「あー…こんなんで、オレ大丈夫かな…」
「しょーたっ!」
「…なに?」
一人、モヤモヤとしていると、取り巻きの女子一人から声を掛けられる。
それも、一番嫌いなタイプの子から…。
オレはその子を横目でチラッと見返しただけで、素っ気なく応える。
それでも、めげないのか、それともただの馬鹿なのか、その子はキツい香水の香りを擦り付けるようにして、オレに寄ってくる。
「今日の帰り、一緒にカラオケ行こ?」
「んー…無理。今日は気乗りしない〜」
「えー!とか言ってここんトコ全然ノリ悪いじゃん!」
煩いなぁと思いながらも、面倒くさいから早くこの場を去ろうと、席を立つ。
「あのさ、遊ぶんなら隆史とか誘いなよ?ほんとはそっち狙いデショ?」
「…っ!な、なんで」
「ん?そりゃー分かるよ。見てればね」
そう言って、薄いカバンとスポーツバッグを持って、教室を出る前、振り返りざまに更にもう一言。
「あぁ、そうそう。隆史たち、きみのその香水の匂いあんま好きじゃないって。じゃあね」
大体、俺を当て馬にして他のメンツに取り入ってもらおうとか…。
そういうのは、良くないと思う。
自分も今、あやっちに恋をしてるから、そういう風に思うんだ。
ちゃんと、好きな人には自分の言葉でしっかりと、気持ちを伝えなきゃ、その熱はきちんと伝わらないって。
そう思って、まだ自分の席に座ってるあやっちの方を見ると、ほんの少しだけ朱に染まっている耳が、そこにはあって…なんだか凄く嬉しくなった。
…少しは意識してもらえてるのかな…。
だったら、嬉しいなって。
あやっちの心は多分彼女が思っている以上に、綺麗で柔らかくて、優しい…。
だから、絶対に泣かせたくないし、壊したくもない。
…きっと、オレだったら…なんて。
自意識過剰なことをふと考えて、ふるふると頭を揺らすと、その雑念を消すようにして教室を出た。