クラスの男子が全員、元カレだった件




「おはよう。和泉ちゃん、今日もよろしくね」


と工場長がコーヒー片手に休憩室に入ってきて言った。


「おはようございます」昼なのに、と思ったけど、社会ではこれが普通なのだと聞いたことがあった。


「はい、一生懸命頑張ります!」


昨日教わった通り、軍手をはめ、ニッパーを持ち、ベルトコンベアーの前で加工・梱包をする。


その作業の合間に、奥の機械で車のフロントライトに使われてそうなパーツを、光に当てながら点検している三島志麻の姿が見えた。


真剣な目。私はその目が奥二重(おくぶたえ)だってことを知っている。


その奥二重の目に時々かかる前髪。私のおでこは、その前髪の触れた感触をまだ覚えている。


前髪を流す右手の人差し指。私の頬は、トントンと突かれた時のテンポを今も刻んでいる。


三島志麻と目が合った。三島志麻は、私の頬を突いた右手の人差し指で、頬を突いたときのテンポで、私の顔に向けて指さした。


私を包んだ、優しい唇が動く。「前、前!」と動いている。


前?


見ると、部品がベルトコンベアーから滑り落ちていた。


しまった! 見とれて、手を動かすのを忘れていた。



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