彷徨う私は闇夜の花に囚われて



「傷つきたくないなら誰のことも信じなくていい。俺のことも含めて、みんな」


ぐっと胸を押し返す私にすんなりと従い、樹くんはただ言葉を重ねた。


淡々と言っているように見えるのに、表情はうっすらと苦さを纏っていて。


本当は信じてもらいたいのに、私の壊れかけの心を守るために自分の欲を優先しない。


心が。大きく、揺らぐ。


「美紅が信じてくれなくても、俺は勝手にずっと傍にいる。絶対に美紅を一人にはしない」


あぁ、もう。こんなの、卑怯だ。


欲しい言葉ばっかり……甘く心を溶かして、誘惑してくる。


もう一度信じたいなんて思ってしまう……。


「ほんとに、一人にしない……?」

「離れろって言われても離れない」


それはちょっと嫌かも、なんて。


軽く笑いを零す一方で、潤んでいく瞳。


視界がぼやけていくのを止められない私を、樹くんは再び覆い隠した。


身も心も絡めとって離さない、力強い腕の中。


一人では立っていることもできない私は身体の力を抜き、魂さえも彼に委ねる。



―――たとえ、多くの棘が刺さり、身を滅ぼすことになるとしても。



私は囚われたことを、後悔しない。




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