冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣が怒りのにじむ声を送った相手は蝶子ではなく、呆然としている沙良だった。蝶子は慌てて沙良をかばう。

「晴臣さん、誤解です! 吉永先生はなにも悪くありません。私がちょっとうじうじしていたところを心配してくれただけで」
「吉永先生? あぁ、彼が翻訳家の先生なのか」

 晴臣は片眉をあげて沙良を一瞥する。

「はい。私の忘れ物を届けにきてくれて」

 だが、晴臣の表情は険しいままだ。対する沙良も決して晴臣に好意的ではない。蝶子を挟んで、ふたりはじっとにらみ合う。先に口を開いたのは晴臣だ。

「心配したからといって、人の婚約者を抱き締める必要があるか? 下心があるようにしか見えなかったが」
「断じてありませんよ、下心なんて」
 蝶子は必死に言葉を探す。自分が晴臣に怒られるのは構わないが、善意で話を聞いてくれた沙良を巻き込むわけにはいかない、その一心だった。
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