冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 もしかしたら、晴臣への恋心は、彼を利用する罪悪感から逃れたいだけなのかもしれない。

 観月家のリビングで、数日ぶりに帰宅した公平を囲んで家族が集合していた。嫌な予感とは、たいてい当たるものだ。

「絶対に私が晴臣さんと結婚する!」

 七緒が大きな声でそう宣言する。公平はどうでもいいと言いたげな面倒そうな顔でむっつりと黙り込む。紀香はサロンで塗り直したばかりの深紅のネイルを眺めながら、七緒に答える。

「なにも、蝶子のおさがりの男なんて選ばなくても……私の実家に頼めば、ほかにいくらでもいい男が見つかるわよ」

 紀香の実家は資産家だ。公平は隠したがっているが、観月製薬が業界で今の地位を保っていられるのも、紀香実家からの支援のおかげであることは知られた話である。

「見つからないわよ。あんなイケメン、初めて会ったもの!」

 七緒の熱意に紀香もやや押され気味だ。

「そう~? でも、医者って患者の目もあるしそんなに贅沢な生活はできないのよ。そういうのは地味な蝶子に任せて、七緒ちゃんは経営者とか投資家とかがいいと思うわ」
「い・や。晴臣さんと結婚するの。もう決めた」
< 37 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop