冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 七緒はがんとして譲る気はなさそうだ。こうなった彼女が折れたところを蝶子はいまだかつて一度も見たことはなかった。おもちゃでも洋服でも友人でも、七緒は欲しいと思ったものは必ず手に入れる。それがたとえ他人のものでもだ。
 公平はふいと背を向けながら、小さく吐き捨てる。

「好きにすればいい。家同士の縁談なのだから、蝶子でも七緒でも構わないだろう」

 その言葉に勢いづいた七緒が続ける。

「むしろ、私のほうが喜ばれるでしょ! お姉ちゃんより若いんだし」
「で、でもっ。七緒ちゃんと晴臣さんは年が離れすぎていないかしら?」

 なんとか流れを断ち切ろうと蝶子は口を挟んだが、口の達者さで七緒にかなうはずもない。
「え~。六歳差も八歳差も一緒よ」
「一緒ってことは……」

(晴臣さんへの気持ちは恋ではないのかもしれない。だけど、それでも……)

 めったに見られない宝物のような、晴臣の笑顔が瞼の裏に浮かぶ。デートはまだ数えるほどで、手を握ったことすらない。彼は蝶子を女性として見てなどいないだろう。
 けれど、彼と過ごした時間は、小夜子が出ていってからの蝶子の人生のなかでもっとも幸福な瞬間だった。それだけはたしかなことだ。
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