冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
 晴臣は十四歳でアメリカのハイスクールに入学し、そのまま米国で医師になった。専門は外科だ。今年で三十歳という節目の年齢を迎えるのを機に、実家である有島総合病院を継ぐために日本に帰ってきた。といっても、米国医師免許は日本では使えないので、来月ある日本の医師国家試験を受けなくてはならない。もっとも、落ちることはないだろうと晴臣は自負している。海外の医師免保持者が受けなくてはならない予備試験も難なく突破したし、実地経験を積んできた自分の知識が、学生に劣るとは思っていない。

 壁一面が本棚になっており、医学書と専門書ばかりが並ぶ応接間のソファに晴臣は腰を落ち着ける。日紗子が出してくれた濃いめの緑茶をひと口飲んで、ふるふると頭を振った。久しぶりの帰国で気がゆるんだのか、いつもはあまりしない時差ボケをしている。まだ夕刻だというのに、強烈な睡魔に襲われた。手の甲を口元に押し当て、あくびをこらえていると、応接室の扉が開いて母親の百合が顔をのぞかせた。趣味である日舞の稽古にでも行っていたのか、うぐいす色の着物姿だ。
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