キミに溺れる。〜ピンク髪の先輩と派手色な恋を〜
「離せよ」
それは、ゾッとするほど鋭い声だった。
落ち着きの中に目一杯の怒りを込めたような……その声が、光石先輩のものだと理解するまで時間がかかった。
思いやりのある声色しか聞いたことがなかったから。
静かな怒りは、時に、怒鳴り散らすより恐ろしさを感じる。
顔に影を落として彼らを睨む光石先輩。
私の肩に触れる男の手首をぐっと掴んでいた。
「痛っ。……んだよ。うざ」
おかげで男の手が離れた。
「なにカッコつけてんの。元陰キャが何したって変わらな──っ!」
不意に、向かい合っていた彼らの目が開かれた。
何か珍しいものでも見つけたような……。
そして──
聞くだけで安心感に満たされる声が届く。
「何してんの?」