ちょうどいいので結婚します
「でも、夫婦になるんだから。そんな他人行儀ではあの(ひと)に追いつけないわよ?」
「そうだよな。でも、彼女の気持ちは尊重したい。だから急かすつもりはないし、ゆっくり時間をかけるつもりだ」
「ゆっくり……?」
 多華子は意外そうな顔を向けた。
「そう。ゆっくり。気持ちに関してはね。結婚はさっさとする」
「なんだ、そういうことね。お見合いみたいなものだから結婚は早くなるわよね。気持ちは結婚してからでも育めるかぁ、一緒に住むんだし。アンタいつまでも待ちそうで嫌だけど」
「うん。結婚できるなら」
 多華子は苦笑いした。
「ま、努力しなさい。彼女への努力なら平気でしょ」
「むしろ、幸せだね。マジな話、彼女公認会計士の資格取りたいらしい。そうなると早めに環境整えてあげた方がいいしね」
「え……彼女、そうなの?」
 多華子の微妙な顔に功至は疑問に思った。
「何だよ、おかしいか?」
「ん、ちょっと驚いただけ。一柳くんが独立するのは前から知ってたの?」 
「直接は言ってないけど知ってた。多分親父経由で聞いたんだろ」
「そっかぁ、そういうのもあって一柳くんと結婚話がでたのかもね」
 功至の顔が引きつった。多華子は慌てて繕った。
「それも一つってことよ、勿論。一柳くんの人となりとか向上心とか、彼女が好感を持ってるとか決め手は他にもいっぱいあるわよ。それより、家に呼んだんだから何か進展あったでしょ!?」

 多華子が土曜日の話題を出したことで功至の表情がゆるんだ。いや、にやけた。のち、唇を押し付けただけのキスを自慢げに話し、多華子に小学生かよと言われてしまったのだった。
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