ちょうどいいので結婚します
 千幸は、あの男を好きだったのではないか。

 功至の頭に良一の顔が浮かんだ。

 身内みたいなものであれだけ親しければ親の耳に入ってもおかしくはない。自分も会社の近くで二人でいるのをよく見かけている。社長が気づかないはずはない。弁護士となれば相手としても申し分ない。なのになぜ結婚相手としてあの男が浮上しないんだ?

 ――結婚出来ない何らかの理由があるか……。それで、彼を諦めなきゃならない時に俺との結婚話が親から出た。彼女の目指す職業の男で、今の会社から離れられる。つまり、本当に彼女にとっても俺が《ちょうど良かった》ということなのではないか。

 功至は一つの仮説を立ててみた。辻褄があう気がした。結婚話が進むにつれて、怖気づいた。やはり、好きでもない男と結婚するのは無理だと思ったんじゃないか。

「そんな……。そんなことってあるか」

 功至は千幸を愛していたがそこまで寛大では無かった。それを許せるほどでは無い。

「悪いが、無理だ。今更、手放してやる気はない。俺と結婚するって、彼女が決めたんだ。手放してやるもんか」

 功至は仮説があっていてもいなくてもどうでもよくなっていた。気持ちがあって、望まれて結婚するんじゃない。そんなことどうでもいい。
 結婚する。そうすることに変わりなかった。

 確かなのは、自分は千幸にとってちょうど良かったということだけだった。

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