ちょうどいいので結婚します
 千幸は顔を赤くした。
「俺も、すだち絞るの苦手なんですよ」
 功至はまだ肩をゆらしながら、期待を込めて千幸を見つめていた。千幸はそれを悟ると、功至のとんすいにすだちを絞った。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 功至は満足して受け取った。見たかったのは、少し得意げにする千幸の顔だった。

 それは、“うまく絞れたね”と猫可愛がりしたいくらいのかわいいどや顔だった。功至は顔がニヤけてしまうのを鱈を食べて誤魔化した。

 少し場が和んでくると、千幸も功至に話しかけた。
「以前から一柳さんに聞きたい事があって、聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
 功至は身を乗り出して、さっきの二の舞いだと座り直した。

「恥ずかしいんですけど、私、公認会計士の資格を取りたいと思うようになって。それで、勉強してたのですが、自己流に限界が来てしまって。一柳さんにアドバイスいただけたら嬉しいのですが」
 
 功至は、千幸が公認会計士を目指しているのは初耳だった。父の勇太郎から情報として伝えられてもいなかった。
「あ、なるほど。自己流は確かに限界が来ますね」
 功至は自分が勉強してた頃のことを千幸に話した。千幸は熱心に聞いていた。
「俺は学生だったから、時間があったし、経済学部だから、勉強に入りやすかったのもある。それでも、資格スクールは行ったよ。試験対策をしてくれるしね。そこで講師のバイトもしながらだから環境は良かった。小宮山さんで言うと簿記の資格あると、ある程度理解出来てるもんね。財務会計論とか。えーっと、そっか」

 功至はそこで指折り数えた。
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