ちょうどいいので結婚します
「結婚するんだったな、あいつと」
「うんそうだよ。こ、婚約中ってことになるのかな、今は」
 千幸がはにかむ。
「おじさんと向こうの父親が知り合いなんだよな。大丈夫だよな。身元は確かだ」
「何言ってるの、良ちゃん」
「いや、服を選ぼうか。千幸、その男の家に言って何かおかしいと思ったらすぐに連絡して来いよ」
「え、うん」

 店員が声を掛けるべきか、どうすべきか戸惑っていた。良一はそれに気づくと千幸にそこの棚から移動するように促した。

「あんな所で立ち話して迷惑だったな」
「本当だね。お詫びに今からちゃんと選んで買う!」
 千幸も店員の視線を感じたが、良ちゃんがかっこいいからじゃないかしらと思っていた。体形も功至と同じくらいだろうか。いつか功至とも一緒に買い物出来る関係になれたらいいなと良一を通して想像してみる。だめだ、緊張して息が苦しい。

「ちー?」
「あ。はい」
 これ以上店員に変な目で見られては困る。千幸は慌てて良一の方へ目を向けた。

「何だ、ちー。顔赤くね?」
「あはは、大丈夫、大丈夫」

 千幸は笑ってごまかした。まさか、功至のことを想像してたなんて言えるわけはなかった。

「後で良ちゃんの服も見る?」
「いや、いい。早く帰りたい」
「あはははは、ごめんって、良ちゃん」
「ほんとだよ、お前ら俺を何だと思ってんだ」

 良一はそうは言いながらも熱心にスカートのラックを物色していた。
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