雨降る傘の下で、愛は始まる〜想う愛に想われ愛
「もう1駅前だから、準備しとけよ」
神崎さんは私の目も見ず、パソコンを片付けていた。
えっ?いつもみたいに何か言わないの?
神崎さんの意外な態度に私は戸惑いを感じた。

新幹線を降り、初めての客先訪問は、前もって資料に目を通していたこともあって、神崎さんと担当の人が話している内容は、詳細は分からずとも、頭にすっと入ってきた。
神崎さんが前もって資料を準備してくれたおかげだ。
それと、びっくりしたのは、神崎さんの対応だった。
別人のように物腰柔らかな口調と担当者が喜ぶような言葉、そして何よりも爽やかな笑顔に、不覚にもどきっとした。

今日最後に訪問した客先担当の人と、打ち合わせという名目で、前もって聞いてた通り、夜は食事会があった。
「朝比奈さん、私共は神崎さんには色々お世話になっていましてね。神崎さんと同行研修で良かったですねぇ。さぁ、こんな機会も少ないでしょうから、どうぞ」
どうしよう・・・
担当の人がお酒を勧めてくれけど、私、飲めないし・・・
でも、そんなこと言って、神崎さんに付き合いもできないのかって言われそう・・・
「ありがとうございます」
私は、ビールが入ったコップをずっと見つめていたけど、飲もうと覚悟を決めた。
息を止めて飲めば大丈夫だ。
コップを取ろうとした時、横から伸びた手が、そのコップを取っていた。
「すみません、朝比奈はお酒が飲めなくて、代わりに私が飲みますから」
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