惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 私は悲しみに染まった心を押し殺し、ユーリに精一杯の笑顔を向けた。

「だけど予想以上に惚れ薬が効いてしまったルーカスは、ユーリの事も忘れるくらい私を好きになってしまった・・・私と今すぐ結婚したくなるほどに・・・。そうとは知らず、あなたはベッドで彼の帰りを待っていた・・・そんなところかしら・・・。」

 昨日の夜、ルーカスは村にある彼の実家に泊まっている。
 首都には帰ってきていないはず・・・。

 私の話を聞き終えたユーリは満足気に目を細め、パチパチパチと手を鳴らした。

「さすがね・・・見事な名推理だわ・・・。でもね、一つだけ訂正するとしたら・・・彼は昨日の夜も私の所へ来たわよ。日付が変わる頃だったけど・・・よっぽど私に会いたかったのねぇ」

 その言葉が本当なのか、ユーリが負け惜しみで放った言葉なのかは分からない・・・。
 だけどそんな事どちらでも構わない。
 だって2人は本当に愛し合った中で、私とルーカスは惚れ薬によって出来た偽りの愛なのだから・・・。

 だけど・・・私の事をあんな熱烈に好きだと迫っておきながら、その夜には別の女性と伽を共にするなんて・・・最低ね・・・本当に、見損なったわルーカス・・・。

「・・・そう・・・あなたとの熱い夜を過ごしながら、夜が明けてすぐ私に求婚するなんて・・・ルーカスは騎士時代に、いつ死ぬか分からない戦場で長い極限状態の中、戦い続けた結果、性格が歪んでしまったようね・・・。」

「いや・・・・・・いやいや、もう事実が原型留めない程めちゃくちゃに歪んでて・・・怖っ・・・なんでそうなっちゃうの・・・?想像力豊かすぎん・・・?」

 ダンさんはどうやら私の話をまだ受け止めきれてないようだ。
 まさか自分が仕える主人が最低の二股野郎だったなんて、そう簡単に信じられないのだろう・・・。

「ユーリ・・・なんで言ってくれなかったの・・・?私がルーカスの事を好きだったの、知ってたでしょ・・・?」

「あら、そんなの私の勝手でしょう?あんたがいつまでも拗ねて村から出なかったのがいけないのよ?気になるなら会いに行けばよかったのに・・・待ってれば王子様が迎えに来てくれるとでも思ってた訳?」

 悔しいがユーリの言う通りだ・・・。
 私が何も知ろうとしなかった・・・悲しみにただ明け暮れて、全部忘れようと・・・動こうとしなかったから・・・。

 私にユーリを責める権利はない・・・。
 ユーリは自ら動いて首都へ行ったのだから・・・。
 ・・・・・・あれ?
 ユーリは首都にいるのに、ルーカスは私の村に来たの・・・?
 ・・・・・・もう・・・どっちでもいいや・・・。

「ユーリ・・・あの惚れ薬の効果はいつまでなの・・・?」

 私は当初の目的であった、惚れ薬の効果時間を訊ねた。
 もしかしたら、ルーカスは効果時間を知っていたのかもしれない・・・。
 だから新しい惚れ薬を持って、その時に備えていたのかも・・・。
 そこまでして無理やり私を好きになろうとしたのだろうか・・・。

「そうね、そろそろ・・・もしかしたら、もう切れてる頃じゃないかしら?」

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