惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
ガチャッ

「エリーゼ!!」

 扉が開かれ、ルーカスが何か強い決意を秘めた表情で入ってきた・・・が、すぐにユーリに気付いて驚愕の表情へと変わる。

「・・・!!?なっ・・・ユーリ・・・・・・?」

 そしてルーカスは床に散らばった物にも目を落とした。

「これは・・・どうなって・・・」

 キョロキョロと動いていた瞳は、惚れ薬の小瓶を見た瞬間、震えて止まった。

「・・・そうか・・・全部・・・知られてしまったのか・・・」

 何かを察し、困惑するようなその視線は私にゆっくりと向けられた・・・

「ええ・・・全部、あなたの計画だったのね・・・」

  ――――悲しみに満ちた表情でそう言ったエリーゼの瞳には涙が浮かびあがり、怒りで震えている様だった。

 ルーカスは私を見つめたまま、自分の犯した罪を後悔する様に苦悩の表情へと変わっていく。

  ――――・・・彼女はついに知ってしまった・・・全て俺の計画だった事を・・・。

 ルーカスの、まるで懺悔するようなその姿に、私は涙が流れるのを我慢出来なかった。

  ――――さっきまで目を合わせれば、恥ずかしがりながら顔を赤く染めていたのに・・・その瞳からは悲しみの涙が溢れていた。

 ・・・恐らく、その時が来たのだと、私は密かに確信した。

  ――――ついに、その時が来たのだと、俺は静かに確信していた。


   ついに惚れ薬の効果が切れてしまった。


 ルーカスはもう、私の事を好きでは無いのだと・・・。

  ――――エリーゼはもう、俺の事を好きでは無いのだと・・・。

 エリーゼは涙を拭い、机の奥にある窓の前まで歩くと、両手で窓を押し開けた。

 そして窓のふちに足掛け、目の前の木の枝に飛び乗り、ドレスが枝に引っ掛かって破れるのも気にせず、身軽な動きで枝を伝いながら地面へと降りていった。

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