惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
0:彼女との出会い(ルーカスside)
 俺は秒で外出の支度を終え、執務室から飛び出した。
 階段を駆け下り、外への扉を開けようとした時だった。

「ルーカス!!」

 その言葉に思わずチッと舌打ちして声の主の方へ振り返った。
 俺に睨まれたダンはギクリと体を震わせたが、恐る恐る妻の身を案じた。

「えっと・・・ユーリは・・・?」

「アイツならさっき帰ったぞ」

 俺の言葉を聞いて安心したのか、ダンは一息つくと、申し訳なさそうに俺の顔色を伺った。

「はぁ・・・すまなかった・・・一体なんの話しだったんだ?」

「話す必要も無い、くだらない話だ」

「そ、そうなの・・・?あ・・・あとルーカス・・・これ・・・」

 ダンはその手に持っていた数枚の封筒を手渡してきた。

 俺はそれを受け取り、1枚ずつ差出人の名前を確認していく。
 俺が手にしている物は全て、エリーゼの家に送られる予定の手紙である。
 俺の経営する事業のひとつに配送関係があり、首都内はもちろん、国内のありとあらゆる場所に集配所を設置してある。
 各地の集配所からエリーゼの家宛ての物を回収し、有害と判断した物は速やかに処分している。

 エリーゼに危険な物を近づける訳にはいかない。
 もちろん、エリーゼを狙う男共も有害として排除する。

 俺は一通り確認し終え、受け取った封筒の中の1枚を握りつぶし、ダンに押し付けた。

「燃やせ」

 それを受け取ったダンはかなり嫌そうに顔を歪めている。

「ルーカス・・・何回も言うけど、人の手紙を勝手に処分するの・・・これ犯罪だからね・・・?ちゃんと自覚してるよね・・・?」

 ダンは何かを確認するように俺を見ているが、どうやらコイツは的はずれな勘違いをしている様だな。

「何を言ってるんだ。こんな下心のある男が、エリーゼの色気を前にして、その醜い欲望を我慢出来る筈が無いだろ。俺はエリーゼの身の安全を確保しながら、新たな性犯罪者が生まれるのを未然に防いでいるだけだ。」

「その発想に至る君が1番危険だと思う・・・」

 ダンが何かを言っているが、これ以上は時間の無駄だ。

「じゃあ俺は行ってくる。あとは頼んだぞ」

「ああ、行ってらっしゃ・・・って何処に!?」

「エリーゼの所だ」

 白目を向いて動かなくなったダンを残し、俺は外への扉を開け、指笛を鳴らした。
 馬小屋から飛び出して来たコールに飛び乗り、エリーゼの元へと向かった。
 最近は何かと忙しく、なかなかエリーゼに会うことが出来なかった・・・。
 5日ぶりのエリーゼとの再会に俺は胸を踊らせながら、彼女の家へと急いだ。
 エリーゼと初めて出会った時の事、彼女と一緒に過ごした日々を思い出しながら・・・。
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