惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 俺はこの首都で生まれ、男爵の息子として立派な屋敷の中で、多くの使用人に囲まれて何不自由なく暮らしていた。
 しかし俺が8歳の時、父親は賭博で借金を背負った友人を助けるため、多額のお金を友人に貸した。
 だが、その友人こそが賭博を経営する側の人間と通じていて、騙し取った父親のお金を経営資金として利用していた。
 後に違法賭博として摘発された時、父親は多額のお金を融資していたと濡れ衣を着せられ、爵位を剥奪された。

 その事がきっかけとなり、信頼関係を失った父親の経営していた事業が次々と倒産。
 多額の借金を抱えて行方を晦ました父親の代わりに、母は住んでいた屋敷や領土を全て売り払い、幼い俺を連れて助けを求めるように故郷の田舎村へ向かった。
 快く迎えてくれた村の人達のおかげで、俺達は救われた。

 しかし、当時の俺はそれまでの贅沢な暮らしから一変した、平民の生活を受け入れられずにいた。
 村の人達が分け隔てなく接してくる態度や、食べ物を分けてくれる事全てが、可哀想な人を哀れんでいる様で、イラついていた。
 
 それに加え、父親がいなくなってからの屋敷の使用人達の態度がガラリと変わった事も大きな人間不信となっていた。
 以前までは優しく接してくれていた人達が、鬱憤を晴らすように暴言、罵声を吐き、見下してくる奴ら・・・僅かに残っていた金品を盗んで行く奴らもいた。

 父親も友人を信じたから裏切られた。
 だから俺はもう誰も信じない。
 誰も必要ない・・・そう思っていた。

 俺は家に閉じこもり、誰とも会うことなく一人でひたすら勉強していた。
 いつか首都に行き、再び貴族の座を取り戻し、俺を見下してきた奴らを見返すために・・・。

 時々、村の子供達が俺を訪ねて来たらしいが、母親に頼んで全て無視することを決め込んでいた。

 だけどある日突然、俺の部屋に彼女はやってきた。

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