惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
0:ライオスの告白(ルーカスside)
「あ、ルーカス!来て来て!!」

 俺の姿に気付いたエリーゼは無邪気に笑いながら俺を手招きしている。
 つい先程まで、エリーゼに拒絶された日の事を思い出していた俺は、その姿を見て少し泣きそうになった。
 俺はコールから降り、手網を近くの木に括り付けてエリーゼの元へと歩いた。
 エリーゼとその男は肩が触れそうな程近い距離で隣り合わせに座っている。

 触れたら殺す・・・

 そんな殺意を滲ませながら男を睨みつけた時、

「久しぶりだね、ルーカス兄さん」

 その男は鼻につくような余裕の笑みを浮かべながら俺に話しかけてきた。
 しかし俺はその男に見覚えは無い。
 ただ・・・俺の事を「ルーカス兄ちゃん」と呼ぶ少年には覚えがあった。
 俺がまだ村に暮らしていた時、鬱陶しいほどエリーゼにまとわりついていたクソガキが脳裏に浮かび、俺は眉をひそめた。

「ルーカス、覚えてる?あのライオスだよ。もう20歳になるんだって!あんな可愛かった赤ちゃんが、こんな男前になっちゃうんだね~!」
 
 エリーゼはライオスを見つめながら嬉しそうに言葉を弾ませた。
 いつもなら笑顔のエリーゼをもっと見ていたいと思う俺だが、今回ばかりはエリーゼが笑うほど俺の心境は穏やかではいられなかった。

 エリーゼの言葉を聞いたライオスも、照れる様に顔を赤らめながら愛しそうにエリーゼを見つめている。
 その表情から、あからさまにこの男もエリーゼに気がある事を察する事が出来る。
 
 こいつがライオスだったのか・・・。

 俺がエリーゼの住む村に来た時、ライオスはまだ言葉も出ない赤ん坊だった・・・。俺が村で過ごした4年間で成長したライオスは、家が近かったエリーゼによく懐いていて、エリーゼもよく面倒を見ていた。
 俺とエリーゼが一緒にいるのを見つけては、俺達の間によく割り込んできたが、相手は4歳の鼻たれ小僧。特に気にする必要は無かったが、あまりにもエリーゼにベタベタしてくるので俺は気に入らなかった。

 あれから16年経った今、舌っ足らずだったあのガキは、一緒に座っているエリーゼと肩を並べるほど大きくなった。清潔感があり凛々しい装いに、透き通るような白銀の長髪は組紐で一括りに纏め、その姿はエリーゼが男前と言うまでに成長していた。

 だが俺がコイツを警戒するのは、それだけじゃない。
 ライオス・ブルーデン・・・その名は幾度となく目にしているし、耳にもした。

「ああ・・・覚えている・・・久しぶりだな・・・」

 口元だけ笑みを浮かべ、憎悪を込めた目でライオスを見ると、俺の意図を察したライオスも口角だけ上げ、挑戦的な眼差しを俺に向けた。
 俺達が視線で威嚇し合っている事など、微塵にも思っていないエリーゼが俺に話しかけてきた。

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