惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
15:見覚えのある後ろ姿
 執務室から飛び出した私は、屋敷の外へ出るために正門がある場所へと向かった。ちょうど馬車が慌ただしく出発しようとしていたので、馬車が正門を出るのと同時に私も走って外へ出た。
 屋敷を出て少し歩いた先は大通りに繋がっていて、行き交う人々が一気に増えた。まるでお祭りの様な賑わいを見せるその光景に私は圧倒された。

 さっきは馬車に乗って通りすぎただけだったから、そんなに気にしなかったけど人の多さに酔いそうになる。
 目を回しかけている私の横をお洒落なドレスを着た令嬢達が通り過ぎたかと思えば、クスクスと嘲笑うように私の姿を見ていた。

 それもそのはず、せっかく買って貰ったドレスは木の枝に引っかかり、大きなスリットが入った様に破れてしまい、他にもあちこち布が破けたり糸がほつれたりしている。
 リボンで(まと)めた髪もボサボサに乱れていたので、そのリボンを解いて髪を下ろし、手ぐしで適当に整えた。

 あちこちで聴こえてくる笑い声が、まるで全て自分に向けられている様にも感じ、いたたまれない気持ちになった私は、人気(ひとけ)の無い路地裏へと入り込んだ。
 
 大きな建物の影になり、太陽の光が当たらないその場所は薄暗く不気味で、傷心の私を一層心細くさせた。
 だけど人気の多い大通りを歩くよりは全然マシ・・・。私は真っ直ぐに続く道に沿って歩き続けた。

 勢いに任せて飛び出してしまったけど、村に帰る方法なんて分からない・・・。
 お金も持ってきて無いから馬車にも乗れないし、宿屋に泊まることも出来ない。
 
 結局、この首都で頼れる人はルーカスとユーリしかいない。
 ・・・だけど今はあの二人と顔を合わせたくない。
 これ以上、こんな私の惨めな姿を晒したくはない・・・。
 仲睦(なかむつ)まじく寄り添う2人の姿を想像して、堪えていた涙がじんわりと滲み出てくる。

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