惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 頭脳明晰(ずのうめいせき)、首都の令嬢達にも引けを取らない気品と美しさを持つユーリ。容姿端麗(ようしたんれい)、騎士にも勝る強さを持ち、首都でも有数の大富豪となり男爵の爵位を持つルーカス。
 なんてお似合いな2人だろうか・・・。
 なんで私が一番ルーカスに近い存在なんて勝手に自惚れていたんだろう・・・?

 2人は一体いつ頃から付き合っていたのだろうか・・・?
 私がルーカスを好きだと知っていたユーリが気を遣って私に内緒にしていた・・・?・・・いや、まさか・・・あのユーリに限ってそれは無いはずだけど・・・。

 もしかしたら私はずっと前から2人の邪魔をしていたのかな・・・?
 私さえ居なければ、2人は6年前に結婚して、今頃幸せな家庭を築いていたのかもしれない。

 私の瞳からはポロポロと涙が零れ始め、頬をつたって落ちた水滴が地面を濡らした。
 
「うっ・・・くっ・・・」

 込み上げてくる嗚咽(おえつ)を手で抑えながら、私はただ目的もなく歩いた。
 それにしても、先程から人と全くすれ違わない・・・。この先は何処へ繋がっているんだろうか・・・?

「・・・!?」

 ふいに背後に誰かがいる様な気がして、とっさに後ろを振り返ったがそこには誰もいなかった。
 いつの間にかだいぶ先まで歩いてしまったらしく、人の声も聞こえなくなっていた。
 ただ真っ直ぐに伸びた道が怪しげな雰囲気を(かも)し出し、急にゾッと背中に寒気を感じて、戻ろうと足を一歩踏み出した時・・・

「きゃっ!!?」

 突然後ろから誰かに腕を掴まれたかと思うと、口元を被せるように布をあてられた。
 鼻をツンと突く様な刺激臭と共に、激しい目眩に襲われてガクッと膝の力が抜けた。
 もはや自分の力では立つことも出来ず、掴まれた腕で無理やり立たされる形になった。

 痛っ・・・・!

 強く掴まれた腕が(きし)み、痛みを(ともな)うが、私の口からは声を発することが出来ない。

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