惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
16.5:優しい嘘つき
 気付くと、私は見覚えのある部屋の中に立っていた。

 私の目の前には6人の子供達がテーブルを囲って座っている。子供達の目の前には工作用の粘土。そのテーブルの真ん中には真っ赤な林檎が置かれている。

 ここは私も同じ村に住む幼い子供達が集まり、勉強を教わっていた部屋だ。
 子供達の中には幼い姿をした私もいる。そしてその隣にはルーカスが座っている。
 思い出した・・・この日は確か、粘土で林檎の形を作る授業をしていたんだ。

 私は2人のすぐ側まで近寄ってみるが、なんの反応もない。どうやら私の姿は誰にも見えていないようだ。

「出来た!!」

 幼い私はそう叫び、満足そうに自分が作った作品を眺めている。
 私はその作品を見て、思わずギョッとした。
 作っていたのは林檎・・・のはず・・・。だけどそこにはグチャグチャのドロドロになった粘土の塊しかない。どう見ても何も出来上がっていない。あえて言うなら、毒林檎が腐ってドロドロになった様だ・・・。粘土でこのおぞましさを演出するのはある意味才能だと思う。我ながら・・・。

 だけどおかしい・・・あの時は確かに完璧なリンゴを作ったと思ってたんだけど・・・。
 ・・・(はた)から見たら、私ってこんなに不器用だったの・・・?

「・・・ああ、出来たな」

 隣のルーカスは表情一つ変えず、私の見るに堪えない作品を見つめている。

 ・・・いや、出来てないよね?
 さすがにこれは無いよって言ってあげて・・・!

 そういうルーカスの作った作品を見てみると、まるでお手本のように美しい林檎を作り上げていた。

 いや、上手すぎじゃない?・・・あれ?ルーカスってこんなに手先が器用だったっけ・・・?
 私の記憶では、工作はルーカスも苦手だったはず・・・。
 だってこの日のルーカスの作品は、もっと酷い出来だったのだから・・・。

< 177 / 212 >

この作品をシェア

pagetop