惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 やっぱりこれは何の意味も無い、ただの夢か・・・。そう思った時だった。ルーカスが突然自分の作品を両手でグチャッと押し潰したのだ。

「え・・・!?」

 思わず声を出してしまったが、やはり私の声は誰にも聞こえていない。
 ルーカスが粘土から手を離すと、あんなに完成度の高かった林檎は、今ので原型を留めないほどペチャンコになってしまっていた。

「俺も出来た」

 そう言うと、ルーカスはペチャンコになった自分の作品を見て満足そうに頷いた。

 ・・・いや、出来てないよ・・・?
 さっきまでは確かに出来てたけど、明らかに自分で潰したよね・・・?
 なんで?本当は器用なくせに、なんでわざとそんな不器用なふりをするの・・・?

 改めてルーカスの様子を見てみると、どうやら私の作品と自分の作品を見比べているようだった。

 ・・・もしかして、ルーカスは私の下手な作品が目立たない様に、自分の作品をあえて下手に見せようとしていたの?

 ルーカスの行動の真意に気付き、思わず感動する私だったが、この後幼い私がとんでもない事を言い出すのを思い出して青ざめた。

「うわぁ・・・ルーカス何それ?あなたってすごい不器用なのね・・・」

 ・・・いやいやいや!!お前が言うなよ!!いや、私なんだけども!!どう見てもそっちの方が酷いから!!!

 自分の理不尽な発言に、全力でツッコミを入れながらも恥ずかしさがこみ上げる。
 私が自分の発言に悶々とする中、ルーカスはフッと笑った。
 
「・・・ああ、すごい不器用なんだ」

 穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、優しい瞳を幼い私に向けている。

 ・・・嘘つき。

 彼は本当に嘘つきだ。
 だけど私の胸はジーンと熱くなり、なんだかくすぐったかった。
 彼の優しい嘘は、私が傷つかない様にするためだと分かったから。

「そっかぁ・・・あ!!手が滑ったあああ!!」

 グチャグチャ!!!

 幼い私はそう叫ぶと、既にグチャグチャだった作品を更にグッチャグッチャにこねくり廻し出した。

 ・・・そう・・・この時の私もルーカスと同じ考えだった。
 ルーカスの下手な作品を目立たせないため、自分の作品を下手に見せようとしていたのだ。

 そんな必要無かったのに!!もう既に芸術的に下手くそだったよ!!

「ああ、俺も手が勝手に・・・」

 私の行動を見たルーカスも、自分の作品をさらにグチャグチャと押し潰していく。
 唐突に自分の作品を壊し始めた2人を、周りの子供達は引き気味に見ている。

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