惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「あら・・・ふふふ。その真っ白なドレスだと、お顔が赤いのもすぐ分かりますわよぉ?・・・さあ、最後の仕上げですわ。どうぞ、お好きな方をお選びくださいませ」

 運ばれてきた卓上のワゴンの上には、ドレスと同じデザインの手袋が二組置かれている。

 一組は左右とも5本指の手袋。
 もう一組は左手側が4本指の手袋だった。

 もしかしたらこの人は、私達が左手の傷を克服する事を信じていてくれたのかもしれない・・・。
 その寛大な心と優しさが嬉しくて、少し泣きそうになった。
 もちろん、どちらを選ぶかは決まっている。
 私はそれを手に取り、自分の手にはめた。

「ふふふ・・・。やっぱりエリーゼ嬢の手に合った手袋の方が、断然美しくてお似合いですわね!!」

 私は自分の目の前に両手をかざした。
 左手には小指がない。だけどそれを隠す必要はもうない。
 誰がなんと言おうと、この左手は私の誇りだ。

「ありがとうございます」

 私は涙をこらえながら店主にお礼を言い、頭を下げた。
 ・・・が、なぜか()かす様に店主が声をかけてきた。

「あら、私はただ自分の仕事をしただけですわよ!それよりも時間がありませんわ!早く行きましょう!」

「あ、はい!」

 今日は朝からずっとこんな感じ。何をするにも「時間が無い」と言われて急かされ続けている。
 ルーカスの周りの人はせっかちばかりなのか、ルーカスの傍にいるとせっかちになってしまうのか・・・。

 私は部屋の外へ出るドアを開け、廊下に出ると、そこには見覚えのある人影が・・・・・・ジルさんだ!
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